現代金継ぎ 食器として使えるのか?問題
2025/7/11(金)
現代金継ぎで修復した器は食器として使用可能なのでしょうか?というご質問をたまにいただきます。
最終的には個人の価値観においてご判断していただくという結論になってしいます。わたし自身はエポキシ樹脂で直したものを食器として気にせず使っていますが、だからと言って全てのものに対して「これは食器として使えます」とも「食器として使えません」とも言い切れません。責任持てよ!と突っ込まれそうですね。まとめてみましたので、最後まで読んでいただければ幸いです。(長いです!)
基本で使用している接着剤はエポキシ樹脂接着剤です。食品衛生法適合の接着剤ではありません。主剤と硬化剤が液体状態のとき、皮膚に付着するとかぶれやアレルギー反応を引き起こす可能性があります。完全硬化後は一種のプラスチックとなり、不溶性、不揮発性になるため、人体への有毒性は極めて低いとされています。最終的にその接着剤を金箔や銀粉などで覆いますので、食品や口に樹脂が触れることはありません。他にヒビを止めるために使用している瞬間接着剤は歯科用を使用しています。エポキシ樹脂のパテ(固形)は食品衛生法適合のものを使用しています。
金属で覆いますので、電子レンジ、オーブン、直火、食洗機などはご使用いただけません。耐熱温度は-30度から80度程度です。耐熱温度といいうのは80度のお湯などを注いだら崩壊するという意味ではありません。80度の状態が何時間も続くと緩んでいくという意味です(その基準やテストはメーカーによって異なります)。熱湯を注いでも崩壊したりはしません。使っていくと金属の覆いは擦れて剥げたり、金以外の金属は酸化したりしますが、貼り直すことができます。
◉食器として使ってはいけない!絶対ダメ!
と、言われる理由は接着する2液樹脂接着剤にあります。食器の接着に使ってはダメ!とはっきり書かれているものもありますのでダメと書かれているからやっぱりダメよ!と思う方はやめた方が良いでしょう。化学物質過敏症の方や皮膚の弱い方などは、主剤と硬化剤そのものや、混ざって化学反応を起こす際、未硬化の場合にアレルギー反応をおこす事がありますので避けた方が良いでしょう。
▶︎リトルタオでは接着後に接着面やパテを覆う様に金属粉を撒いたり金箔を貼ったりします。つまり接着剤が直接、口や食物に触れることはありません。
◉エポキシ樹脂って何?エポキシ樹脂というのは私たちの日常に溢れています。たとえば缶コーヒーの缶の内側はエポキシ樹脂でコーティングされていたりします。もちろん安全性を確認したエポキシ樹脂ではあると思いますが。その他にも食器、弁当箱、水筒、タッパーなど食品保存容器、ペットボトル、プラスチックカップ、ラップ、おもちゃ、哺乳瓶などにも使われています。硬化後のエポキシ樹脂は、圧縮、衝撃などに対しての強度や耐久性、耐薬品性、耐熱性、耐水性など良い面もあります。
▶︎「BPAフリー」という言葉を聞いたことあるでしょうか?「BPA」とは、ポリカーボネートやエポキシ樹脂などプラスチックの原料となる化学物質、ビスフェールAのことで健康問題を指摘されています。「BPAフリー」とはそれを含まない製品のことを指します。しかし「BPAフリー」だから安全なのかというと代替品である「BPS(ビスフェノールS)」や「BHPF(フレオレン-9-ビスフェノール)」といったものを使用した商品も同様の問題を指摘されています。一定の安全基準のもとで商品化されていると思いますが、何事もおこらないとは言い切れないのが現状で研究が進められています。
◉接着剤についての模索
リトルタオでは主に「セメダイン 2液混合型接着剤 ハイスーパー5 5分型」を使用しています。主成分:エポキシ樹脂(主剤)、ポリチオール(硬化剤)。下記の注意書きがあります。
- ガラスの場合、硬化収縮でひびがはいることがありますので、10cm×10cm以上の接着には使用しないでください。
- 貴金属や高価格品の接着には使用しないでください。
- 皮ふや飲食物が直接触れる部分の接着・補修には使用しないでください。
- 接着面が小さい部分(眼鏡フレームなど)には充分な接着力が得られません。
- 生物を入れる容器には使用できません。
▶︎直接触れなければ良いのでは?と私は考えていますが、皆さんはいかがでしょうか?
そうは言ってもどこかが認定してくれた安全マーク付きが安心だよね。とも思います。
友人に教えてもらった「タイトボンドⅢアルティメット」成分:架橋型ポリビニルアセテート樹脂(52%) 水分(48%)
- 早い初期接着力。
- FDA(アメリカ食品医薬品局)の基準をクリア。
- ANSI(米国規格協会)/HPVA(米国広葉樹合板&突板協会) Type I 耐水基準をクリア
- 高い耐熱性と耐溶剤性。
- 硬質木材から軟質木材他殆どの多孔質基材に使用できます。
- 有害な有機物質を含みません。
- 水で拭き取れます
▶︎これはとても良さそう!と思い試してみました。オープンタイム(接着剤塗布後、貼り合わせるまで放置できる許容時間)が約8~10分で、クローズドタイム(接合後、被着材を動かして微調整できる許容時間)が約20~25分と書かれているのでワークショップで使うには良い長さだと思いました。
1回目:30分程度放置、くっついた!と喜んで汚れを落としていたら崩壊。
2回目:24時間以上放置、くっついた!ところがちょっと力を入れたら崩壊。
3回目:思案中
堅牢さと利便性は兼ね揃えられないのだろうか、、それとも塗るのが下手くそ過ぎるのか、、。スペック的には申し分ないのだけれど小さな衝撃のある日常生活に耐えられる強度は欲しいのです。使っていてまた割れて怪我をしてしまっては嫌だなと思っています。丁寧に扱う気持ちの余裕があれば問題ないのかもしれませんが、忙しい人にこそ好きな器で楽しんで欲しいと思うのです。もし接着しても失敗する確率が高いとしたら?万人が気軽に金継ぎをするだろうか?しないだろうな、、。という事でいまのところ研究中です。
※チンが出来るらしいのだけれど、未確認。この場合、金属粉は使用しない。
合成漆はどうだろう?
工芸うるし:うるし調の仕上がりになる水性ウレタン塗料。食品衛生法に適合しているので、箸置きや菓子皿にも使用できます。
成分:合成樹脂類、顔料、添加剤類、アルコール系溶剤、炭化水素系溶剤、その他の溶剤。*合成漆も色々あるので一例です。
- 鉛および鉛化合物を使用する原料は一切使用しておりません。
- ホルムアルデヒドを使用する原料は一切使用しておりません。
だそうです。その他の溶剤って、、製品を安定させるために添加剤が必要だという事ですね。それでも食品衛生法に適合した塗料です。
▶︎わたしはウレタンの臭いが苦手なので使いません。食品衛生法に適合とはいえ、成分もはっきりとわからないものが多いのが気になります。
金継ぎ用レジン(英語で樹脂をレジン Resin と言います)てどうだろう?
金継ぎ用では成分が出てこなかったので、食品衛生法に適合しているという2液性レジンの成分です。
例1 主剤:エポキシ樹脂 アリルグリシジルエーテル 硬化剤:プロパンジイルジフェノール、イソホロンジアミンビスフェノールA樹脂
例2 主液:エポキシ樹脂 硬化液:ポリアミト 他
▶︎樹脂にはかわりなく、しかし食品衛生法に適合なのだから、なにかしら溶け出しにくいとかあるのかな。ないとダメだよね。人体への有毒性が低いはずです。乾燥に時間がかかるのがネックに感じます。
もうひとつの接着剤 αクイン
主成分:αシアノアクリレートモノマー歯科材料のメーカーが作る瞬間接着剤です。主成分はアロンアルファと一緒ですね。皮膚用のアロンアルファも主成分:エチルα-シアノアクリレートと書かれていますね。医療用はグレードが良いらしいです。
▶︎この接着剤とても良いと思いました。接着後が丈夫で、素早く接着できます。ただ作業に慣れていない不器用な方だと上手くいかない可能性も高いなと懸念しています。ヒビの隙間を埋めるには最適です。2グラムづつという小分けなのも良いです。
ALTECO 食品衛生法品衛生法370号適応接着剤
主成分:シアノアクリレート
▶︎こちらは食品衛生法に適応したものですね。試してみたいと思いますが、サイズが20グラムと大きめなのでまだ試していません。
◉エポキシパテ
レクターシール EP-200 安全データシート食品衛生法370号第20号承認
成分:合成樹脂100%(エポキシ樹脂+アミン+アミド)耐熱温度:-40~+200℃
使用している接着剤(2025.07)
これはあくまでも超個人的な見解と想像。たとえばオーガニックの野菜を売る時、オーガニック認証をとるのにものすごくお金と時間がかかるらしくて、小さな規模の農家さんはオーガニックだったとしても時間とお金がなくて認証をとることができなくてオーガニック野菜と言って売る事ができないというのを聞いた事がある。もし、これが接着剤にあてはまるとしたら? 食品衛生法をとるために工場すべて殺菌された設備を備える必要があってものすごくお金がかかるから、できない。素材は一緒なのに。そんな事が起こっているかもしれない。あと、たとえいま「食品衛生法」に適合している、ペットボトルやタッパー、水筒、弁当箱、お皿、箸、茶碗、などなどを使ったことによってアレルギーを引き起こしている人はたくさんいるし、警鐘を鳴らしている事象はたくさんある。私はたまたま丈夫で気にせずにエポキシ樹脂で直した器を使っている。小さな子供も老人も一緒にくらしていない。人それぞれの体調や体質、環境、家族構成、いろんな要素があると思う。はじっこならエポキシでいいかもしれない、真っ二つだけど乾き物だけに使おうとか、ちょっとした取皿なら許容だなとか、使わないけどとにかく形を復元したいんだ!とか。 どんな器で、どこが壊れていて、どう使いたいのかというところを一度ご自身で考えてみるっていうのが重要な気がする。
最後に、漆で直した器を使うのが一番よいとわたしは思っている。丈夫で安全で長持ちだと歴史が証明していて、食器として堂々と使える。間違いない。漆カブれには気をつけて。
追記
今回いろいろと調べていたらポジティブリストにのってます!とかやけに言うよねと思っていたところ、2025年6月1日から食品衛生法改正により「ポジティブリスト制度」が本格施行されたそうで、”安全性が確認された物質のみをリストアップし、リスト以外の物質は原則として使用できない” だそうです。*リスト未確認
不適合な食器が販売・提供され、消費者の健康に被害が生じた場合は、食器を提供する販売店や飲食店、修理を請け負った業者、修理方法を情報提供した者なども、その責任を問われるそうです。
食品衛生法第81条第1項第1号食品衛生法に違反した場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されることがあります。
なので、”リトルタオのワークショップで直した器は食品衛生法的には食器として使用できません“。 わたしは気にせず使っていますが、食器として使うか使わないかは個人でご判断をお願いいたします。最後までお読みいただきありがとうございました!日々精進しておりますのでその都度更新してまいります。
余談
使用している材料、弁柄粉について:朱色の顔料で、酸化鉄から作られています。弁柄色の上に金をのせると美しくみえるという効果があります。ベンガラ(弁柄)は、酸化鉄を主成分とする赤色顔料のことで、主に赤鉄鉱などの鉄鉱石を砕いて加熱処理をして作られる無機顔料*1です。縄文時代から使われている顔料で陶磁器の着彩や漆器、家具塗装、建築塗装、染料、船舶の錆止めなど防虫、防腐の効果があるそうです。 wiki
*無機顔料は天然の鉱石や金属の化学反応によって得られる酸化物などから作られる顔料。対して有機顔料は石油などから構成される合成顔料。*もうひとつの朱色。辰砂。硫化鉱物の中で最も歴史が長いといわれ、古来から人々に絵の具や顔料として利用されてきた石。自然水銀を含むため、地球上で最も毒性の強い鉱物とされている。不老長寿の霊薬として、中国漢方では鎮静や不眠症に効く「丹砂」として使用。
金粉という書き方について:つねづね思っているのですが金継ぎワークショップの説明で、「金粉を接着剤(や工芸漆など)混ぜ合わせます」って書いてあるのがたまにあるんですけど。金属粉(真鍮粉)または金色の粉のことですよね?と心の中で思いながら読んでいます。金粉(ゴールドの粉)混ぜたらもったいないし、ありえないから、、。変色もしないから、ゴールド、、。ど素人の人が見たり読んだりしたらほぼ勘違いするし、勘違いしてる生徒さん何人もいましたから、、。ちゃんとしてる人は金泥とか金消とか表記してるのでしっかり読んで、ちゃんとしたところへ習いに行ってくださいね。