読書記録 「須賀敦子著 女ともだち」~コルシア書店の仲間たちより
2022/2/3(木)
<める記>
いつもながら、すっとぐっと引き込まれる出だし。
風花さんと感嘆しながら読み進めた。
この章は友人のガブリエ-レについて語られている。
1991年の春とあるのだから、須賀さんの亡くなる7年前、訪れたローマでのできごとがきっかけの回想である。
出だしで須賀さんは、「ルネッサンスの絵にある幼天使のようなくるくるとした巻き毛」と
ガブリエ-レを表わしていた。
そのせいだろうか、私の中ではこの章を終み終えるまでボッティチェリの絵の中の翼をつけた天使が、
ガブリエ-レそのものとなってしまった。
ちなみにボッティチェリの絵の中のガブリエ-レは常に百合の花を抱いている。
表題の「女ともだち」はこのガブリエ-レの女友だちのことであり、俗な言い方をすれば女性遍歴のこと。
ところで須賀さんは、幾人も登場するこのガブリエ-レの女ともだちについて、
一貫して事実のみを記している。
良いも悪いも、好きも嫌いも批評的な一切を記していない。
そういった多くの「女」を愛した純粋な天使の心の移ろいを、ただ遠くから冷静に眺めているような。
いつも新しい女ともだちを紹介するのだから、ガブリエ-レが須賀さんを信頼していたのは間違いない。
そしてとうとう、ガブリエ-レからミ-ナという女性を紹介される。
これまで紹介された「女ともだち」とは異なり、生い立ちも含め共通点があり互いにシンパシ-を感じているよう。
須賀さんはやっと大丈夫そうと感じた。
最終的にどうなったかは語られてはいないが、きっと天使は羽を休めることができたのだろう。
また、この章では風花さんも私も共感した、須賀さんの好む旅のかたちが語られている貴重な一文がある。
「ガイド・ブックや職業案内人にたよる旅行は、知識は得ても、心はからっぽのままだ。
友人といっしょに見たあたらしい(見慣れた街角でもいい)景色には、その友人の匂いがしみついて、ながいこと忘れられない。」
一方的ではない、友と共に歩み対話を重ねる旅。
やがて流行り病が収束したなら、こんな旅をたくさんしたいとつくづく思う。
<風花記>
ガブリエーレの物語。
スタンドで新聞を買っている青年に「ガブリエーレ」と声をかけそうになる敦子。
ガブリエーレと思った青年の容姿が語られる。
ガブリエーレは、今は70歳近い老人のはず、目の前にいるのは、巻き毛の青年だ。
1991年の春、ローマのアルジェンティーナ広場のバス停留所でのことだった。
読者である私は、語られる青年の容姿と広場のバス停留所に思いを馳せる。
須賀さんの導入部の筆力には、いつも感心する。
旅する気持ちで読むと、私は考える。
ローマのアルジェンティーナ広場に、私は立ち寄ったことがあるだろうかと・・
敦子が、ガブリエーレに最初に出会ったのは、ジュノワ。
日本からの長い船旅をおえて、イタリアに上陸した日だ。
二度目は、6年後、ダヴィデに会いに来たガブリエーレと3人でロンドンを旅する。
ロンドン塔、テムズ川遊覧、ハンプトン・コート、動物園。
敦子がミラノで暮らすようになると「書店」に女ともだちを連れてくるようになるガブリエーレ。
ガブリエーレの恋が綴られる。
ドイツ人のインゲ、エンジニアの妻であるアンナ、そのアンナの両親の家に招待される敦子、両親が
日本びいきで、敦子に会いたがったのだった。
書店の仲間であるカミッロに誘われてガブリエーレと敦子は、山の村へ出かける。
そこは、スイス国境に近いイタリアの村。
明日は、それぞれの家に帰るという晩に、ガブリエーレは生い立ちを語る。
未婚の母のこと、貧しかったこと。
村では疎外されていたこと。
その生活の中で、秋には栗を拾い、食事の足しにしたこと。
お母さんが、栗を使って、カスタニッチャという甘みのあるパンをつくってくれたと語る。
終わりに、ガブリエーレに誘われてジュノワに行った時のことが綴られる。
アルプスのふもとの都会から地中海沿岸へ出るための列車、ミラノ・ジュノワ線の風景が綴られる。
ジュノワにつくと、ミーナというあたらしい女ともだちと一緒に敦子を迎える。
そのミーナが、敦子の小学校の友人に似ている。敦子もミーナに好感をもつ。
ミーナが借りたフィアット500で、チンクエ・テッレへ出かける。
チンクエ・テッレは、五つの陸地で、昔は船でしか行き来のできなかった断崖の村。
今は、その傾斜地にワインをつくっている村で世界遺産に登録されている。
ガブリエーレにふさわしい女ともだちができたとかもしれないと思った敦子の気持ちが綴られる。
敦子が出会ったイタリアの人々の物語。
今回は、ガブリエーレの恋とともに、イタリアの美しい村や風景を綴っている。
★旅する気持ちで読む須賀敦子、今回、私の心に残ったキーワード
・私は美術館に行くと必ず「受胎告知」を鑑賞する。
ガブリエルがマリアにキリストを妊娠したことを告げる場面を絵画にしたもの。
ガブリエルとガブリエーレは同じでいいのかな。
・ローマのアルジェンティーナ広場のバス停
・カミッロのふるさと、スイス国境近くの村
・チンクエ・テッレ
ガブリエーレが生い立ちを語る場面、ちょっと不釣り合いで辛そうなお付きあいに見えた女ともだちのこと、
そして、どこか敦子の友人を思わせる画家のミーナに出会えたことを喜んだと思える敦子の姿を思い浮かべた。
ガブリエーレの物語は、他の章でも綴られたかしら・・と自信のない私です。
2022年1月24日