コラボ企画インタビュー Vol.3 旭山動物園 「体験を通して”ミッション”を伝える」

夢中が集まるプラットフォーム「aini」では、日本全国でさまざまな体験を提供するホストが集まっています。

この連載「コラボ企画インタビュー」では、その中でも企業や団体のホストのみなさんが体験を開催するまでの経緯や実施した内容、企画に込めた想いをお伝えします。

今回紹介するのは、旭山動物園の体験について。旭山動物園園長の坂東元さんと、旭山動物園との企画を担当しているainiの賈 帆帆(ジャー ファンファン)さんにお話をお聞きしました。

プロフィール写真:坂東園長

旭山動物園 園長 坂東元さん

帆帆さん

aini 賈 帆帆(ジャー ファンファン)

目次

  1. 来園しても体験できないことをやりたい
  2. 旭山動物園らしく伝える
  3. 共に取り組むからこそ広がる可能性

──ainiとの企画が始まった当時、旭山動物園さんはどのようなご状況でしたか?

坂東:ainiさんからご連絡をいただいた今年(2021年)の2月は、​新型コロナウイルスの影響で開園が難しい状況でした。自分はデジタルよりアナログにこだわりがあったんですが、お客さんに来てもらえない中で「動物園とは一体なんなんだろう」と考え、まずは何かしらの情報発信を取り組んでいかなければと、SNSを本格的に使い始めていたんです。

当初は、ただ写真が載っているだけ、という印象で旭山動物園らしく情報発信することの難しさを感じていました。

イベント内坂東園長スクショなど、坂東園長が写っている写真

──どのような経緯でainiとの取り組みを始めることになったのでしょうか?

賈:3月に開催した「親子でサステナブルオンラインスクール・どうぶつの未来をかんがえる日」の時に、旭山動物園さんにぜひ登壇いただきたいなと思い、お声がけしたのがきっかけです。

坂東:当時は「バーチャルで動物園を体験しよう」とか、オンラインを使った企画のお誘いも多かったんです。趣旨を聞いた上で、共感できる点があれば一緒にやろう、まずは試してみようと思っていました。

──どのような部分に共感しましたか?

坂東:インターネットやSNSを活用する上でも、見て楽しいということだけでなく、普通ではできない、来園しても体験できないようなことをしたかったんです。うちぐらいの広さの園でも、2、3時間あれば地球一周ができるぐらい、各地の代表的な生き物が集まっていて、環境や多様性、未来について考えるきっかけにできる場所だと思っています。

直接話しをしながら、動物を見ながらの対応だと、リアルではどうしても人数の制限がありますよね。多くの人へ効率的に同じ内容を伝える、動物にテーマを絞って、過去から現在、未来のことをまとめて考えるには、オンライン上でのやり方が合っているなと考えていました。

ainiさんとの企画は、これからの時代の主役になる子どもたちが動物たちの未来を真剣に考える、いい機会になる気がしたんです。

初回イベント時参加者、子どもたちの様子

旭山動物園らしく伝える

──オンライン上での発信に取り組む中では「旭山動物園らしいか」がキーポイントだったようですね。

坂東:よくあがる話でいうと「可愛い」ということについて。「可愛い」が悪いわけではないんですが、ある意味で残酷的な言葉で…。可愛いからかわいがる、可愛くないからいらないよ、という考えにもつながってしまう。「可愛いからみてね」といってしまうと価値が固定されてしまう気がするんです。

うちの動物園は、パンダやコアラ、ラッコといったカリスマ的な動物に頼らずに「こんな動物つまらん」と言われていた動物たちだけで、廃園寸前のところから立ち上がってきました。

今年のポスターはカバの親子。一昨年はエゾシカで、昨年は狸。狸がポスターになるなんて、30年前ぐらいはあり得ませんでした。いわゆる地味な動物たちを旭山動物園の顔にできるまできた。こちらがフラットに素晴らしさを伝えて、見た方、聞いた方がどう感じるかは僕らが干渉すべきことではない。発信する側が変に価値をつけてはいけないなと、そういった意味での細かいこだわりがすごくあります。

狸のポスター

──ainiではどのようなテーマの体験を開催されたんですか?

賈:はじめての企画は、日本人が初めて絶滅させた生き物であるエゾオオカミ、害獣として駆除されているエゾシカ、母グマを射殺されたエゾヒグマのことを取り上げながら、まさに動物の可愛さという側面だけではない、人との共存というテーマについて、考え直すきっかけをいただいた内容でした。

坂東:子どもたちがしっかりと聞いてくれることが印象的でしたね。同じような内容を、園内に来た子どもたちに実施することもありますが、オンラインの方がぐーっと集中する印象があります。子どもたちの向上心、学びたいという意欲を感じ、話しがいもありましたし、他のSNSとは違い、対話をしながら進めるという意味でもいい機会でした。

──プログラム内容の企画はどのように進めていきましたか?

賈:広報チームで大枠のテーマは考えながらも、坂東園長が伝えたいことを聞きながら、内容を決めていきましたね。園長のもたれている使命、ミッションとのつながりがあるテーマにしようと話していました。旭山動物園といえば行動展示ですが、その背景を子どもたちに知ってもらいたいとゴールデンウィークに実施した「坂東園長と旭山動物園の行動展示を科学してみよう!」には350組近くの方にご参加いただきましたよね。

坂東:ainiさんは幅広い分野でさまざまな取り組みをされていて、子どもたちや社会情勢といった観点で、総合的な考えを持たれているなと感じます。生き物たちをただ見てもらうというよりも、未来につなげる、今をしっかり考えるきっかけにする、といったことに結びつけて企画できる。ainiさんのカラーと、うちがやりたいことの合致する部分を実施できたと思っています。

イベントKV

──取り組まれる上で意識した点はありましたか?

坂東:体験の対象となる小学4年生くらいの年齢は一番難しい層で、楽しさもないと入り込めなかったり、動物たちの動きなども見せながら、興味が途切れないように、話もきいてもらえるようには意識しました。自分としては少し得意でないところだったんですけれど(笑)。賈さんの上手な進行のおかげで助かりました。

賈:難しい表現をわかりやすく伝えることを、坂東園長なりに工夫いただいたなと思っています。シンプルなクイズでも、なぜその答えになるのか解説をしていくと、大人でも勉強になる内容で、子どもたちもどんどん引き込まれていましたね。

イベント中のクイズの写真

共に取り組むからこそ広がる可能性

──ainiとの取り組みを通じて考えていること、感じていることを教えてください。

坂東:いまの情勢がどうなっていくのかまだ見えないですが、オンラインでの取り組みに良い点はいっぱいあったと思うので、移動の制限が解除されたからといってオンラインの活用を辞めるのではなく、リアルとの組み合わせを考えていければと思っています。

動物の親子の姿を子どもが生まれたころからオンラインで発信し続けていると、最初から見守っている方が「アビシニアコロブスだけをみにきました」と遠方から足を運んでいただけたりするんです。オンラインでつながりやすくなったこの機会に、動物の見方を身近に、命とのつながりをしっかりと感じて欲しいですね。

絶滅危惧種だからとかそういうことではなくて、色々な生き物たちを認め合って、暮らしについて向き合うきっかけとなる可能性が動物園にはあると思っています。物理的な距離がハードルとなって現地に来れない子どもたちも、オンラインだからこそ関心を持てたりするし、まだまだやらなきゃいけないことはたくさんあるなと思っています。

アビシニアコロボス

坂東:学校や世代の垣根を超え、同じ関心をもった人同士がグループを作れるようになったことで、時代は劇的に変わるかもしれない、とも感じています。一定の層だけが集まったグループだと人を広く集められない、マニアックになりすぎて、一般化するきっかけを見つけられないということもある。

ainiさんは、多様な人たちが集まり、色々なことを伝え合うプラットフォームになっていくといいですよね。移動できるようになったから、またリアルだけで考えるのではなく、オンラインの可能性を追求して欲しいです。ainiさんのように前向きに取り組んでいるプラットフォームがあるからこそ、ぼくたちも発信の場を持てているのでとても頼もしく感じています。

──今後ainiの中で取り組まれたいことはありますか?

坂東:特定の動物やテーマに絞ったシリーズもありかなと思いつつ、うちは春夏秋冬を通して景色が変わり、動物の表情も変わるので、まずは一年しっかりと関わらせていただきたいですね。

賈:私も冬の旭山動物園の様子を全国に届けたいと思っています。大人向けの企画はいかがですか?園長のお話を聞くたびに、本気で涙が出そうになるのでぜひお願いしたいです(笑)

坂東:大人向けでいうと、例えば「社会」をテーマに考えられますよね。社会はなぜあるか。動物たちは基本的に子どもたちの生存確率を高めるために社会をつくって生きています。ある意味、次世代のために生きている面もあるんですよね、そんな風に色々と思うことはありまして…。もし企画していただければ、もうちょっと踏み込んだ話ができると思いますよ。色々と視点が変われば見方も変わるし。

現在「えぞひぐま館(仮称)」を一緒に作っている知床財団の方と連携し、知床から中継して流氷を見ながら話をする、といった企画もやってみたいですね。たくさんの人、子どもたちに伝えたいことがあるけれども、その団体だけでは発信力がまだまだ足りないというところに、ainiさんの力が加わると輪が広がりそうだなと思います。

えぞひぐま館の画像

──子どもたちや関心をもって参加いただいている方に向けて最後にメッセージをお願いします!

坂東:動物園や自然の中で、動物たちを見ていて感じるのは、認め合うこと。自分で価値を決めて相手を殲滅するのではない。自然の中では自分を食べる生き物と一緒に生きるんですよね。存在を排除し合わず、認め合う。好きになる必要もないし、嫌いになる必要もない。無理して好きになることはかえって辛くなるかもしれない。ぼくたち人間は、認め合うということを忘れてしまった、置き去りにしてきてしまったような気がします。動物園での体験や、話を聞く中で、こういった認め合う気持ちを感じてもらえたらいいなと思っています。

まとめ

動物園のあり方と向き合い続けてきている旭山動物園のみなさんだからこそ、オンラインの技術やainiのプラットフォームを目的に合わせた形で活用できるのだなと思いました。大人向け体験企画の実現が待ち遠しいかぎりです。

メニュー