vol.02|小田原駅
マンホールは好奇心の入り口だ!
下を向いて全国を行脚する マンホーラー・白浜公平さん
小田急小田原線の始発・終点駅である小田原駅。
戦国時代から城下町として栄え、江戸時代には宿場町としても賑わった神奈川県小田原市は、城や海の幸などで人気の観光地だ。
そんな中「小田原はね、マンホールが面白いんですよ!」と語る偏愛家がいた。
マンホールに魅せられ、通称「マンホーラー」として活動する白浜公平さんだ。
今回ご紹介する偏愛紀行は、全国のマンホールを写真に収めているマンホール偏愛家と巡る『小田原町歩き体験』。
そこには、下を向いて歩く者だけに見える奥深き世界が広がっていた。
戦国時代から城下町として栄え、江戸時代には宿場町としても賑わった神奈川県小田原市は、城や海の幸などで人気の観光地だ。
そんな中「小田原はね、マンホールが面白いんですよ!」と語る偏愛家がいた。
マンホールに魅せられ、通称「マンホーラー」として活動する白浜公平さんだ。
今回ご紹介する偏愛紀行は、全国のマンホールを写真に収めているマンホール偏愛家と巡る『小田原町歩き体験』。
そこには、下を向いて歩く者だけに見える奥深き世界が広がっていた。
聞き手:柳瀬武彦(偏愛紀行編集部)
偏集部・柳瀬
今日はどうぞよろしくおねがいします!って、ちょっと待ってください!白浜さん寒くないんですか?
白浜さん
おはようございます!全然ですよ!小学校からずっと、冬でも半袖で過ごしてます。暑がりでして(笑)。
白浜公平さん
大学院生の頃、合併によりなくなった町名が書かれたマンホールを見かけ、その魅力に取り憑かれる。以後さまざまな町のマンホールを巡っては、その写真をインターネット上で発表し、マンホーラーの中でも一目置かれる存在に。本業はシステムエンジニアで、季節を問わず半袖で過ごす。マンホールナイト実行委員
知る人ぞ知るマンホール天国・小田原
偏集部・柳瀬
白浜さんはマンホール偏愛家、通称マンホーラーだと伺っていますが、普段はどういった活動をされているのですか?
白浜さん
そうですね、全国の町を歩いてはマンホールを撮影して、写真をコレクションしています。だいたい1万種類以上のマンホールは撮ってきたかなと思います。
偏集部・柳瀬
1万ですか!?そもそもそんなにマンホールって種類があるんですね!それで小田原にも来たことがあるのですね?
白浜さん
僕は生まれが小田原でして。と言っても4歳までしかいなかったのですが、自分のルーツは小田原という意識なんです。そのあと伊豆に引っ越して、大学からはずっと東京に住んでいますが、時々遊びに来るんです。
偏集部・柳瀬
そうでしたかあ!マンホールだけじゃなく、町自体にも詳しい訳ですね。
白浜さん
小田原には珍しくて美しいマンホールがありまして、今日はぜひそれをお見せしたいんです。
偏集部・柳瀬
よろしくおねがいします!普段なかなかマンホールに注目することもないのですが、珍しいマンホールというのはどんなものなのでしょうか?
白浜さん
小田原市内では珍しい色付きマンホールなのですが。
戦国時代に小田原は北条氏政の拠点だったのですが、その弟である北条氏照は東京都八王子市、北条氏邦は埼玉県寄居町をそれぞれ拠点にしていたんです。
戦国時代に小田原は北条氏政の拠点だったのですが、その弟である北条氏照は東京都八王子市、北条氏邦は埼玉県寄居町をそれぞれ拠点にしていたんです。
偏集部・柳瀬
おお…3兄弟が南北一直線上に拠点を。
白浜さん
今ではその3都市は姉妹都市になっているのですが、2017年に友好の証にそれぞれの町オリジナルのマンホール一つずつ交換したんです。
偏集部・柳瀬
マンホールを交換ってなんだかいいですね。
白浜さん
それから、途中でマンホールカードも貰いに行こうと思います。
偏集部・柳瀬
ん、何ですか…マンホールカード??
白浜さん
まあまあ、まずは歩いてみましょう!
偏集部・柳瀬
意識して歩いていると、マンホールってすごくたくさんありますね。
白浜さん
「汚水(おすい)」や「雨水(うすい)」などと書いてある下水道用だけでも、100メートルに3つぐらいあります。上水道やガス、電気、通信などすべて合わせると、いたるところにありますね。
偏集部・柳瀬
ほんとだ、サイズや形はいろいろですが、マンホールだらけですね…。あっ、これは小田原城が描かれていますね!
白浜さん
そうですね、これがいわゆる小田原のご当地マンホールです。
見える世界が180度変わったマンホールとの出会い
偏集部・柳瀬
白浜さんはどうしてそんなにマンホールを偏愛するようになったのですか?
白浜さん
15年位前でしょうか…大学院生だった頃に茨城県のつくば市に行くことがありまして。スペースシャトルが描かれたマンホールがふと目に入ったんです。それから地面に注目しながら歩いていたら、もう統合されてなくなっていた茎崎町のマンホールが残っていて。それで面白いなあと思ったのがきっかけです。
偏集部・柳瀬
へえ…!スペースシャトルはわかる気もしますが、今はなき町に惹かれるというのはなかなかマニアックですね。もともと地図や歴史が好きだったのですか?
白浜さん
いや、マンホールにハマってから興味をもつようになりました。それまでは天文学を学んでいたので、上ばかり見ていたのですが、下を見るのも面白いなと(笑)。
偏集部・柳瀬
見える世界が180度変わったんですね(笑)。
偏集部・柳瀬
それから全国のマンホールを巡るようになったのですか?
白浜さん
そうですね。調べたり、実際にいろんな町を歩いてみると楽しい発見がどんどんあって一気にハマりましたね。そもそもですが、マンホールって何だかご存知ですか?
偏集部・柳瀬
いえ、そう正面から聞かれると…。下水道や電線の工事をするための穴ですよね?
白浜さん
そう、マンホールはその名の通り、人が中に入って工事や点検などをするための穴です。なので、人が入れない小さいものは用途によって弁筐(べんきょう)とかハンドホールなどと呼ばれます。手だけを入れて作業するので、ハンドホールですね。
まあ、それらすべてをひっくるめてマンホールと呼んでしまっていますが。
まあ、それらすべてをひっくるめてマンホールと呼んでしまっていますが。
偏集部・柳瀬
確かによく見ますね。
白浜さん
厳密に言えば、マンホールというのは正確には“穴”のことなので、マンホールの蓋というのが正しいんですね。それを略して私たちは「マンホール」と呼んだり、「蓋」と呼んだりしているわけです。
偏集部・柳瀬
言われてみれば確かに穴ですね(笑)。蓋と呼ぶことはなかったですが…。
白浜さん
マンホールはその自治体が管理をしていることが多いので、行政区によってデザインが違うものがあります。
見かけによらず間口の広いマンホールの世界
偏集部・柳瀬
マンホールってマニアックで奥深いところもありますけど、すごく親しみやすいですね。単純にデザインを見ているだけでも楽しいです。
白浜さん
そうなんですよ!世界中どこでも楽しめるし、お金もかからないし、マンホールだけに奥が深いから。年齢も性別も関係なく、みなさん楽しんでくれますね。
偏集部・柳瀬
全国で考えるとものすごい数のマンホールの種類があると思うのですが、これってどなたがデザインされてるのですか?
白浜さん
マンホールのデザインはですね、場合によるのですが。自治体の方がする場合もあれば、マンホールメーカーがしたり、公募して決める場合もあります。
偏集部・柳瀬
おお…マンホールのメーカーさんがやはり存在するわけですね。
白浜さん
昔は100社以上あったようですが、今では全国で20社程度と聞いています。
偏集部・柳瀬
デザインに決まりのようなものはあるのですか?
白浜さん
まず大きさは一般的なものは直径60cmで、機械を入れるために90cmや大きいものだと180cmくらいのものまであります。安全性のために強度の基準があるのと、滑りにくいことがデザインの条件ですね。
偏集部・柳瀬
ああ…確かに雨の日なんかは滑りやすいですものね。
白浜さん
図柄も大切ですが、滑らないかをひとつずつチェックして、デザインが確定するので、制作には1年近くかかることもあるそうです。あ、これ見てください!
偏集部・柳瀬
おお…これは点字ブロックをまたいでいますね。
白浜さん
こういうものは化粧蓋と言って、この道用の一点物なので、ひとつずつ職人技でつくられています。
偏集部・柳瀬
いやあ、点字ブロックの上にちょっとだけ歩道の素材を入れていたり、よくみるとすごく緻密ですね!これは1つ作るのも大変だ…。
白浜さん
マンホールの寿命は車道で15年、歩道で30年と言われていますから、結構交換されたり、新しいデザインが増えたりしてるんですよ。
偏集部・柳瀬
あ、また小田原ご当地マンホールですね。
白浜さん
ここらで写真を撮りましょうか。
白浜さん
いつも撮影するときはマンホールを掃除してから撮影するんです。
偏集部・柳瀬
え、いつも持ち歩いてるんですか?
白浜さん
はい、いつ何があるかわかりませんからね!
偏集部・柳瀬
なんか掃除していると…いいことしている気分になりますね…!
白浜さん
僕たちは「野性の下水道局員」と自分たちのことを呼んでいます(笑)。
偏集部・柳瀬
マンホーラー用語が多いですねえ(笑)。
白浜さん
ここ、よく見てください!
偏集部・柳瀬
え、え、どこですか??
白浜さん
マンホーラーの中には、このマンホールに生息している緑を偏愛する人もいまして、「蓋庭」や「隙間ネイチャー」などと呼んで愛でています。
偏集部・柳瀬
もう、偏愛が過ぎますよ(笑)。
偏集部・柳瀬
全国にいわゆるマンホーラーの方は何人ぐらいいらっしゃるんですか?
白浜さん
正確にはわからないのですが、下水道広報プラットホームが主催する「マンホールサミット」というイベントがありまして、毎回4000~5000人ぐらい集まるんです。
偏集部・柳瀬
えっ、そんなにですか!
白浜さん
TwitterなどSNSが出てきてから、マンホーラー同士のつながりも増えましたね。僕たちがはじめたマンホールナイトというイベントも、最初は20人位でしたが、今では毎回100人くらい集まっています。
偏集部・柳瀬
それだけ人数がいると、派閥というか、マンホールの好みも分かれそうですが…?
白浜さん
みんな仲はいいですけれど、マンホーラーは大きく2つに別れまして、1つは戦前のものなど古いものが好きな『骨董派』、もう一方は珍しい図柄を探し求める『デザイン派』です。
偏集部・柳瀬
なるほど、白浜さんはどちらなんですか?
白浜さん
僕は両方です!
偏集部・柳瀬
そんな気がしました(笑)。
かまぼこもいいけど、色付きマンホールとマンホールカードを
白浜さん
かまぼこ通りにやってきましたね。ここはいくつかかまぼこ屋さんがあるので食べ歩きもできるんです。お、見えてきましたよ!
偏集部・柳瀬
おお、あの鮮やかな蓋は…!
白浜さん
これが埼玉県寄居町のものですね!これはまだ設置されて1年くらいなので、とてもきれいです。これ、パッと見で何色使われているかわかりますか?
偏集部・柳瀬
えっと…5色ぐらいですか?あれ、ここは違う緑か…あ、茶色も微妙に違う色だ。
白浜さん
意外と色数を数えるのって難しいんです。これは数えてみると…12色使ってますね。
偏集部・柳瀬
うわあ…ちゃんと数えるとそうですね。色付きは一点しかないのに、すごく手が込んでますねえ。
白浜さん
小田原は海が近いので海鮮も美味しいのですが、中でもかまぼこがとても有名で。
偏集部・柳瀬
いいですねえ!食べ歩きの町歩き。最高です!
白浜さん
では、次はマンホールカードをもらいに行きましょう!
偏集部・柳瀬
ちょっと待ってください。そのマンホールカードというのは…?
白浜さん
マンホールカードは下水道広報プラットホームが下水道を盛り上げるために発行しているもので…
偏集部・柳瀬
下水道を盛り上げる…?
白浜さん
ええ。日本では、上水道の敷設は明治から進んでいたのですが、戦争の影響などもあり、下水道の普及はすごく遅れていたんです。
偏集部・柳瀬
そうだったんですね。
白浜さん
そこで昭和の終わりごろに、もっと下水道を普及させるためにデザインマンホールが出てきたんです。そのおかげもあって、居住地の下水道普及率はほぼ100%になりました。
偏集部・柳瀬
今では改めて気にすることがないくらいですものね。
白浜さん
普及したらそれで終わりというわけではなく、今度は下水道の維持のために更新も大切なんだということを認識してもらうために、マンホールカードという広報施策が生まれたんです。
偏集部・柳瀬
そんな経緯があったとは…。ちなみに、カードは何種類ぐらいあるんですか?
白浜さん
今では約400の自治体で500種類近くのカードが作られ、配布されています。
偏集部・柳瀬
それはコレクター魂をくすぐりますね…!
白浜さん
お、到着しました!ここが「小田原宿なりわい交流館」です。
白浜さん
こちらの紙に記入すれば、無料でもらうことができます。
偏集部・柳瀬
めちゃ難しいマンホールクイズとか出なくてよかったです(笑)。
偏集部・柳瀬
おお、なんか子供のころを思い出すというか。すごくありがたみがありますね…!いろいろ書いてありますが、この数字などはどういう意味なんですか?
白浜さん
右上にあるのは総務省による都道府県や自治体の番号。左下はマンホールの座標で、右下にあるアイコンは図柄のモチーフを表しています。富士山、お城、山、川が描かれているということですね。
偏集部・柳瀬
よくできてますねえ…裏にはデザインの由来が書かれていますね。すっかり集めたくなってきてます。
白浜さん
ぜひ、みんなで下水道を盛り上げましょう!
その偏愛に蓋をするな
偏集部・柳瀬
白浜さんはマンホールの魅力を多くの方に知ってもらいたいとおっしゃっていましたが、具体的には今後どのようなことをしていきたいですか?
白浜さん
いつかマンホール博物館をつくりたいですねえ。マンホールも消耗品ですから、古くなってしまったものはどんどん廃棄されてしまうんです。それを保存して、後世に残していけたらと。
偏集部・柳瀬
それはあったら行ってみたいですねえ。マンホーラーをもっと増やせば、なんだか実現できそうな気がします。
白浜さん
あとですね、今日もう一つだけやりたいことがありまして…。
偏集部・柳瀬
お、なんでしょう?
白浜さん
神奈川県のこのあたりのエリアには、行政区の境に特別なマンホールがありまして。緊急時に上水道を融通し合うための制御弁用のマンホールなのですが、蓋が握手しているデザインで。これをぜひ探しに行きたいんです…!
偏集部・柳瀬
なんですか、そのかわいいマンホールは!行くしかないですね!
偏集部・柳瀬
町の境まではやってきましたけどねえ…。これって、小田原と箱根の境にあることは確かだけど、具体的な場所はわからないということですね?境って言っても道はたくさんありますよね(笑)。
白浜さん
そうなんです。ストリートビューでも見つからないんですよね。おそらく国道とか広い道にあるんじゃないかなと思うのですが…。
白浜さん
一本入ったところかなあ。正確な行政区の境ではないこともあるので、マンホールに書かれた行政区を見ながら行きましょう。切り替わったところが怪しいんです。
偏集部・柳瀬
さすが、こういうシチュエーションに慣れていますね(笑)。
偏集部・柳瀬
かなりローカルな道に来ましたが…こんなところにあるのでしょうか…。
白浜さん
ないですねえ。いやでも、意外とこういうところにね…。
偏集部・柳瀬
寒くなってきたので…
白浜さん
お!ありましたああ!!やりましたあああ!!!
偏集部・柳瀬
すごい、なんだか感動しました…!そこまで気持ちを突き動かすマンホールは、白浜さんにとって一体どんな存在なのでしょうか?
白浜さん
マンホールは良き友ですね!どこに行っても一緒にいてくれるし、いつでも新しい気持ちで楽しませてくれる。もっとマンホールの魅力を多くの人に知ってもらって、友達の輪を広げていきたいです。
いつからここに置かれているのか。どうしてそこに置かれたのか。どうしてそういうデザインになったのか。一枚のマンホールからいろいろな世界が見えてくる。白浜さんとの町歩きを終えてから、町を歩く目線は少し低めになり、日々の風景は変わった。自分が住む街にもこんな変わったマンホールがあったなんて、こういう体験がなければ気づくこともなかったかもしれない。
偏愛が旅を変える。いや、偏愛は毎日をも変えてしまう。
さあ、白浜さんの溢れる愛に会いにいこう!
偏愛が旅を変える。いや、偏愛は毎日をも変えてしまう。
さあ、白浜さんの溢れる愛に会いにいこう!
聞き手・文:柳瀬武彦 / 撮影:小田垣吉則
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