“私らしく生きる”の本当の意味 |「灯台もと暮らし」編集長・伊佐知美【インタビュー】

これからの暮らしを考えるウェブメディア「灯台もと暮らし」(運営:株式会社Wasei)編集長、オンラインサロン「伊佐知美の #旅と写真と文章と Slackコミュニティ」、著書『移住女子(新潮社)』の出版など、会社に所属しつつも、自由な活動と幅広い分野で活躍されている伊佐知美(いさ ともみ)さん。

2016年4月から世界各地を飛び回り、「旅×仕事」を軸にしたワークスタイルを実現。その様子を自身の『noteに更新し続けたことが反響を呼び、今や注目の存在となっています。

でもどうして、旅にでたのでしょう。どうして、「移住×女子」を題材にした本を書いたのでしょう。今回のインタビューでは、働く女性の憧れの存在である、伊佐さんにお話を伺いました。

二度の転職を経て、やっと見つけた居場所までの道のり

ーー『灯台もと暮らし』編集長、オンラインサロンのオーナー、ライター、写真家……さまざまなお仕事をされている伊佐さんですが、まずは伊佐さんについてお聞かせいただきたいです。伊佐さんは「ジョブチェンジ=異業種への転職」を二度も経験しているとか。『灯台もと暮らし』の記事内で、「これまで金融業界、出版業界を経て、今の会社はやっと見つけた好きなことができる居場所」とお話しされていますが、Waseiに入社するまでは、どんな想いを抱えていたのでしょうか。

伊佐知美さん(以下、伊佐):単純に生き方に迷っていました。いや、今も迷っているんですけれどね?(笑)20代前半にイメージしていた「こういう風に働きたいな」と思える女性像に、それまで所属していた組織や世界の中で出会えなかったんです

就活をしていた頃に「働き方は生き方だ」なんておぼろげに思っていたのですが、実際に働いてみたら「これが私のしたいことかな?」とあんまりピンとこなくて。当時は「好きなことをする人生」よりも、「好きなものを買える人生」を選ぼうと思っていたんです。つまり……給料のよい会社!(笑)

もちろんそのときの仕事は充実していたし、楽しかった。い仲間に囲まれていたし、計画の通りお金もね。でも、5年後、10年後の自分をふと想像してしまったんです。毎日まいにち同じ電車に揺られて、同じ場所で同じようなスーツを着て働いている「想像できる未来」。そこに疑問を持ってしまったことから、私自身が「これだ!」と思える女性の働き方や道筋を、ずっと探していたんだと思います。

ーー現在の伊佐さんのワークスタイルである「旅をしながら仕事をする」というのは、伊佐さんが考える”理想の自分”だったんですね。

伊佐:そうですね。場所を問わずに仕事ができるようになろうというのは、私の中でひとつ大きな目標ではありました。

ーー「旅×仕事」に興味を持った原体験ってありますか?

伊佐:うーん。あまり正確に覚えていないのですが、父親が転勤族だったので、幼いころから各地を転々としてきました。日本国内、あとは中国の上海で暮らしていたこともあります。それに加えて、小さな頃から本が好きで特に沢木耕太郎さんの『深夜特急』や村上春樹さんの『遠い太鼓』出会ったことが影響している気がします

まぁ、旅好きの王道の本ですが(笑)。作中長期に渡って旅をする様子はもちろん、ヨーロッパの島々など世界各地で原稿を書く、というワークスタイルが描写されていました。多分その頃に「×書く仕事ってすごい!」みたいな印象を持ってしまったんだと。

ーーそれから二度の転職を経て、今の働き方に至るわけですね。でも大半の人は、転職してまで“憧れ”や“理想像”を掴もうとしないと思うんです。妥協して諦めるか、怖くて選べない。でも、伊佐さんの思いっきりさというか、勢いが、すごいです(笑)。

伊佐:え、ほんとですか……(笑)。勢いがよいかどうかは分からないけれど、私は「早く金曜日の夜がこないかな」って多いながら月曜日とか火曜日を過ごすことの方が、怖いなって思っています。いつまで生きていられるかなんてわからないから、楽しんだほうが人生よさそうじゃない?

とはいえ、もちろん私も最初はすごく怖かったです。一歩を踏み出すきっかけは、最初に勤めた会社を辞めたことにあると思います。ただ、全部手放すんじゃなくて、それぞれのフェーズで保険をかけるというか、仕事暮らしスライドさせて進んできました。

ーースライド、とは?

伊佐:たとえば専業主婦をしながら、本当にやりたい仕事に就くための就職活動をするとか出版社のアシスタントという本職を得ながら兼業でライターを始めるとか。よくよく思い返してみると、私は5年前まで無職の専業主婦だったの(笑)。本業のかたわら、1本500円の報酬でライターを始めて、半年で20倍、数年のうちに200倍くらいいただけるようになったのかな。「書くことで生きていきたい」と強く思っていたから、それを実現させたくてね。

「なかなか本業ライターになれない。ライターはいつまで経っても副業のまま」と悩んでいるひとが、本業を辞めたらすぐにライターが本業になった、という話が好き。今の自分を全部キープしたまま、違う自分にガラリと変わることはないのかなって。

どうして『移住女子』は移住×女子なのか

▲著書『移住女子』。2017年1月27日、新潮社より出版。

移住女子(新潮社)

「もっと私らしく生きていける場所がある!  家賃が高い、通勤がしんどい、おまけに子育ても大変。そんな都会から地方へ移住して未来を変えた、8人の「今」。岩手、新潟、鳥取、福岡と場所は違えど、そこには豊かな自然、ご近所さんとの絆、ゆったり流れる時間がある。移住のきっかけ、働き方、恋の話……。地域に寄り添い自分らしく生きる女性たちの素顔に迫る。」

ーー「移住×女子」というテーマを掲げたときのルーツはなんでしょうか。

伊佐:大きなきっかけはこれからの暮らしを考えるというコンセプトを持つ、『灯台もと暮らし』の編集長をしていたこと。媒体の柱のひとつが「地域特集」や「地域×企業特集」なので、必然的に移住された方に取材する機会が多くて。

中でも「女性」にテーマを絞っていったのは、やっぱり同性・同世代の方の話に一番私が心動かされたから。「女性の生き方を考えたい」と「かぐや姫の胸の内」という連載を始めたりもしました。

ただ、『移住女子』出版の直接のきっかけは201512月の「全国移住女子サミット」です。ここで、移住された方を取材している編集者として登壇させていただき、出版の話につながりました。私が「移住女子」という言葉を発見したわけではなくて、「移住女子」という名前でもともと活動されていた女性たちがいたからこそ生まれた本です。

ただ、灯台もと暮らしの運営会社・Wasei代表の鳥井が「灯台もと暮らしは、移住促進メディアではありません。」というように、「移住」というテーマに力を入れているのは、じつは移住促進がしたいという気持ちとは少し違うんです。人生にはいろいろな選択肢があるけれどできればみんな「より納得感のある幸せな人生」が歩めたらいいと思います。

「自分の未来に、移住という選択肢があるかもしれない」そう考えるきっかけになったらうれしいなと思いながら、『移住女子』を書きました。

ーー株式会社Waseiのコーポレートサイトのインタビューで、伊佐さんは「働く女性のロールモデルになりたい」という目標を掲げられていますが(下図参考)、『移住女子』を出版した動機になっているのでしょうか?

スクリーンショット:株式会社Wasei コーポレートサイト | メンバー

伊佐:うーん。「誰かのためにロールモデルになりたい!考えたというより、自分がモヤモヤして納得がいかなかったから、「じゃあ自分でやってみよ〜!」とかなり自分本位、直感を頼りに進んできた結果ですね(笑)。ただ、人生で一度は自分の名前で本を出したいとは思っていました。

「もうちょっと違う働き方があるかも?」「その答えは、自分が好きなことを仕事にした先に、あるかも?」と直感を大事に動いた先で出会ったのが、今の会社であり、今のライフスタイルです。メディアやオンラインサロンの運営、執筆、撮影、イベント企画や……最近だとモノ作りに取り組み始めています。

ーーなるほど。それが伊佐さんの思う「納得感のある人生」だった、と。

伊佐:そうなんだと思いますまだ道半ばですけれど、「書く」ということを追い求めてたら、写真撮影や語学のスキルを上げるとか、身軽に移動しながら働くとか、かの仕事にチャレンジしようという気持ちもどんどん膨れ上がってきて。

もしかしたら、今の時代だと新卒の時点でフリーランスとか、思いつくかもしれない、私でも。けれど、私が就活していたのはもう10年近く前なわけで、転職もそんなに一般的じゃなかった時代。しかも、もともとフリーランスとか兼業で働くという意識は私の中にまったくなかったんですね。頭、すごい堅かったんです。

だから人って変わるもんだな、って今は思ってます(笑)。当たり前のように就職する、という働き方から、仕事をつくるのが楽しい、という発想へ。

働く女性たちのロールモデルの悩み

ーー伊佐さんの今後の展望はなんでしょうか?

伊佐:う〜ん難しいなときに、「風の人と土の人」という言葉ご存知ですか?

ーー「かぜのひと」と「つちのひと」?

伊佐:私たちの会社は「風の人」。なぜなら、拠点を持たずに各地を転々としてるから。その逆、町や地域……つまりその土地に根付いた人たちが「土の人」。私たちが「風の人」の目線を持っているからこそ、各地の土地や人の魅力に気づけることはあると思うんですでも、そろそろ私も一度「土の人」にならなきゃなって

ーーどうしてそう思うんですか?

伊佐:いまの私って、自由なんです。自由すぎるくらい(笑)。一緒に暮らす家族もいなし、とりわけ守るものもない。もはやどこにいてもいいんですけど、それってかなり虚しいじゃないですか。

ーー1人で旅を続けることに対して、孤独を感じていらっしゃる?

伊佐:そうですね〜。正直、めちゃくちゃさみしい(笑)。私が旅に根底の理由って、「世界が見たかった」それだけなんです。「本当にニューヨークってあるのかな」みたいな(笑)。私の中では「寝る・食べる」という生理的欲求に近くて。

けど、世界30カ国を旅したくらいから、どうやらこの欲求は満たされたようだぞと感じ始めてねもうこのフェーズはおしまいのようだぞ、と。

ーーえええ!どういうことでしょうか。

伊佐:私が29歳というタイミングで長い旅に出た理由は、“焦っていた”からなんです。27歳でライターを始めて、なんの実力もないまま「編集長」肩書きを手にしました。その立場で、移住先の方やカフェの経営者など、自分の好きなことを追い求めている方々と対話するわけです、取材として。そのうち、それがすごく後ろめたいものに感じられて。編集長としての私と、個人としての私の乖離というかね。

ーー乖離?

伊佐:自分の好きなことを追い求めなければ、編集長として取材させていただく方々に誠意を持って向き合えない、というようなことを思ったんでしょうね。めんどくさいですが(笑)。

だから本当に好きな旅に出て、その先で「私はどんなものが書けるのか」「どんなことができるのか」を、もっともっと自分も知って、周りにも伝えていかなければ、編集長としてメディアを育てていけないなって。それが“焦り”の正体。

で、まぁ私の中である程度整合性がとれたとして、聞き続けてもらって(笑)。

世界を旅してがついたのが、結局「日常が一番美しい」ということ。でも、その「日常」を築くためにはどこかの土地に根付かないといけない、「土の人」にならなければいけない。多拠点居住をするにしても、どこかに本拠地がないと、日常の美しさに気づくことができないんです。

―つまり、今後の展望は「土地に根付くこと」なんですね。そのために移住を考えているのでしょうか?

伊佐:とはいえ、帰国したのが4月なのでまだ正直模索中です。現時点では、実家のある新潟と東京の2拠点居住がメイン。ただ月の半分は地方取材で不在なので、どこに住んでいるか……と聞かれると答え方が難しいですね。近い将来、海外にも拠点を持ちたいなと。まぁでも、今は決めかねてますね、タイミングが違う感じがして。どうしようかな〜(笑)。

ーー自由すぎますね(笑)。

伊佐:あとは、好きな人が暮らしているとか、何かよいご縁があるとか、タイミングかなと(笑)。場所と時間を問わずに働くスタイルを選ぶことができたのは、会社というチームがあるおかげなんですけど。いまここにいても、スペインにいても仕事ができるのは、書き手として刺激になっています。

ーーありがとうございます。「aini magazine,」の読者の方は、30代から40代の女性が多いんです。もしかすると、読者のなかには”タイミング”を逃してしまい、葛藤を抱いている方がいるかもしれません。そういう方に、なにか伝えられることはありますか。

伊佐:現代の女性というより、過去の自分になら伝えたい事があるかなぁ。あんまり世の中の女性に堂々と言えるような立場でも実績でもないの

自分になら、「限界ってじつはあんまりないのかもしれないよ」と言いたいです。自分の常識は、自分が触れてきた世界の中だけで作られるけど、それを一回取っ払ったり、「外に出ても大丈夫かも」ってきっかけさえ掴めたら、けっこうできないことって、ない。そりゃあ今からサッカー選手になる!みたいな目標だと難しいと思うけど、サッカーに関わる仕事ならできるかもしれないし、歌手になるんじゃなくて歌詞を書く人になる。いつか、昔の夢を昇華する手段に出会えるかもしれない。

そう思ったことを『note』に書いたこともあります。

参考:「現実を見ろ」という言葉の意味が変わる時。|伊佐 知美|note(ノート)

ーー歳を重ねるごとに、「現実を見ろ」という言葉の意味が、重みが変わってくる…という話を、伊佐さんのフィルターを通して描かれていましたね。

伊佐:私は実際に、自分が今までと違う働き方を実践してみたり、模索したりすることで、今まで出会えなかった価値観を持っていたり、生き方を実践する人たちに出会うことができました。

自分のやれること、得意なこと、周囲に求めてもらえることの交差点を、一生懸命探って仕事を作ってきました。だからもしかしたら、「自由に働く人」の末端には含めてもらっているのかも。辛いことはもちろん毎日いっぱいあるんですが、わくわくすることの方が多いかな。

だから何か伝えたいというよりも、「伊佐がこれだけ自分の好きなことをして生きているんだから、私ももう少しだけ好きなことをして生きてみようかな」と思ってもらえたらうれしいです。

生きることは、楽しいことだと思うから。楽しんだもん勝ちだと思う。さっきも言った、「毎週金曜日の夜が早くこないかなぁ」って思う生き方・働き方よりも、「毎日わくわくすることに囲まれていて、しんどいことももちろんあるけどやっぱり楽しいなぁ」って思いながら日々を過ごす方が、幸せそう。

30歳で「もう若くない……」って思えてしまって、チャレンジ怖くなるときもあるけど、そもそもライター始めたのが27歳めちゃくちゃ遅いし、怖くなったら「でも、残りの人生でいまこの瞬間が一番若い!」って思うようにしています。自分をいかに、ごきげんな状態に持っていけるかが、楽しく生きる鍵だと思うなぁ。

お話をきいた人

伊佐知美(いさ ともみ)

1986年、新潟県生まれ。横浜市立大学国際総合科学部卒。三井住友カード、講談社勤務を経て独立。現在は(株)Waseiに所属。これからの暮らしを考えるウェブメディア『灯台もと暮らし』編集長・ライター・フォトグラファーとして活動中。日本全国、世界中を旅しながら取材・執筆活動をしている多拠点居住者。連載「伊佐知美の世界一周さんぽ(昭文社・ことりっぷ)など。オンラインサロン「編集女子が“私らしく生きるため“のライティング作戦会議」主宰。著書に『移住女子』(新潮社)。

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