玄人世界の奥深さ〜餅は餅屋
2021/1/15(金)
大きく前後してしまいましたが、去年の12月2日に参加した体験について
少し書いておきたいと思います。
大相撲の体験や、ふろしき使いの体験を開催されている
ふろしき使い イナバリエさんの体験
「ふろしき使いと巡る 見るだけでも楽しい呉服問屋街 お買い物もOK!」
https://tabica.jp/travels/10719
でした!
イナバさんは、「深川福々」というタウン誌で相撲の記事を書かれているライターさんでもあります。
私は深川界隈も好きなので、お店をウロウロしているうちにそのタウン誌を知り、参考になる記事も多いので何冊か保存していましたが、まさかTABICAでそのライターさんにお会いできるとは思っていませんでした。
(こちらはイナバさんから直接いただいた深川福々)
そのイナバさんが、繊維問屋街である日本橋馬喰町、日本橋横山町を案内してくださる体験とくれば、参加しないはずがありません。
それも、久々のリアル体験です。
浅草橋界隈は私も好きでよくぶらぶらしていたのですが、さすがに繊維問屋街は「一見さんお断り」「小売不可」と入り口に書かれている店が多いように感じていたので、お店の中に入ることはありませんでした。
来ることがあっても、喫茶店探しのためだったり、ギャラリーが多いので友人の作品を見るためだったりで、お買い物をすることもありませんでした。
その問屋街を、なんとこのタイミングで覗けるだけでも貴重!と思ったので、迷わず予約申請しました。
正直、覗き見ばかりのつもりで、あまりお買い物をしようとは思っていませんでした。
というか、そもそも街や店内を覗いたことがなかったので、どんなふうにお買い物できるのか、イメージがほとんどできていなかったんですね。
繊維問屋街と一口に言っても、リネン類やタオル類、洋服などもありますし、どちらかというとそう言ったお店の方が、私の目には普段から目立って見えていました。
呉服問屋については、存在自体が私の目にはまったく入っていなかったんです。
かつて私は着付けを「長沼靜きもの学院」に習いに1年間通ったのですが、こちらに通うと折に触れ展示会などがあり、「本物を見る目を養う貴重な機会」などと言われながら参加を勧められます。
なので、今まで呉服類を買うといえば、その展示会やデパートなどだけでした。
今回の体験で、初めて呉服も問屋街で買えるのだ!と知った次第です。
でもよく考えれば天下の日本橋ですし、すくなくとも江戸時代から栄えた場所なのですから、呉服を扱っていて当然ですよね。
自分では、浅草橋辺りをよく歩いているつもり、着物の知識も入門程度ですが、普段着る程度には困っていないつもりでした。
そういう人間にも「馬喰町界隈の呉服問屋」というのはまったくの謎だったわけですから、こちらの体験がいかにレア体験か、想像がつくのでは?と思います。
そういえばかなり昔ですが、日本橋人形町の卸問屋さんで江戸小紋を買ったことがありました。
もちろん一見では不可でしたが、たまたま職場に出入りしている方がその問屋さんとお知り合いで、紹介してもらったのです。
そちらのお店でも年に一度バーゲンをしていて、業者さんではない感じのお客さんも来ていたと思います。
人形町界隈はその昔、京都から移り住んだ人が多く、街も少し落ち着いた雰囲気があり、結構呉服屋さんが多いです。
値段も手頃だったので、それまでの私にとっては、人形町が呉服の街でした。
いずれにしても、問屋さんで呉服を見るというのは、なかなか機会がなく、ハードルが高いことに違いはないと思います。
で、体験当日ですが、1件目のお店に入るところで、早速店頭に並ぶ安い品々に、つい足が絡め取られてしまいました(笑)。
気さくなスタッフさんに誘われて店内に入ってみると、高級呉服が所狭しと展示されていました。
それも、かなり珍しい感じの反物が多いです。
例えば、私がむかし人形町で買った江戸小紋は、鮫小紋の普通のこまかさでしたが、そのお店に飾られているのは、人間国宝の人が作るような、展示会場であれば目玉になるような目の細かい小紋でした。
私も詳しいわけではなく、そういろいろなものを見て知っているわけではありませんが、見たことのないような色の入った大島や結城、芭蕉布などがありました。
(こちらは私です)
すくなくとも長沼靜の展示会場でも目にしなかったような反物です。
だから、とても一般庶民には手が出るものに思えませんでした。
普通なら軽く100万越えみたいな感じだと思います。
ところが、実際にお値段を伺うと、ただ驚きの一言でした。
お店の方にも言われましたが、「これで買わない理由がない」ような価格です。
私もあやうく揺らぎかけました(笑)。
というか、揺らいでもそう危険はない額ですし、品質の高さを考えると
はっきり言って夢のような価格です。
これが20年前だったら、おそらく3日連続お店に通ってそれぞれ何かしら買っていたと思います。
しかし残念ながら離婚後で断捨離決意中の身、いま持っているものですら持て余しているので、断腸の思いで諦めました。
お店の方によると、今はコロナの影響で、和服の売れ行きも落ち込んでおり、特に作り手の方は苦境に立たされているそうです。
そのため、普段ではありえない価格で取引されているということでした。
あっという間に時間が経ってしまいましたが、その合間にもプロ相手の世界を垣間見られた感じで、すごい充実感でした。
そして何より、少し緊張感ある空間でササっと軽くかわしながら軽妙な立ち位置を保つイナバさんの個性が光っていました。
プロフィール写真からも、粋な柄の着物をご自身らしく着こなされているご様子が伝わりますが、
お話のひとつひとつから、エスプリを感じます。
風呂敷や大相撲、呉服問屋など、紹介されるものは日本独自のものですが、
なんとなくイナバさんご本人の感覚には、フランスのエスプリのようなものを感じるのです。
江戸の粋とも通じていると思いますが、イナバさん独特の感覚が洗練されて表現されているように思います。
なので、どんなお話を伺っても、楽しくおもしろいのです。
それが気負ったふうもなく、少しひょうひょうとしていて、視点にも思わず唸ってしまいます。
帰りがけ、お昼をご一緒させていただき、また超ワビサビなカフェも教えていただきました。
いちいちツボでした。
玄人さんの世界の奥深さを感じ、余韻にひたりつつ
体験の場所を後にして、馴染みある人形町まで歩きました。
引っ越して1年近く経つのに気に入ったハサミが買えず、カッターで代用していたので、この日はせっかく下町に来るから、刃物を買って帰ろうと決めていました。
まず人形町の「うぶけや」へ。
小学生の時に買ってもらった和バサミを切れなくなったまま長いこと使っていましたが、意を決して新しいものを買うことにしました。
ちょっと大きめのものがいいように思えて見せてもらったのですが、
「手に合うサイズのものがいいですよ」と言われ、実際に糸を切らせてもらい、
最初に見たものよりは少し小さいものを選びました。
また、何年か前にやはりここで剪定バサミを買ったので、研いでもらおうと持ってきたのですが、
「まだこれは切れるから、これで研いでしまうと減ってしまってもったいないから、切れなくなってからお持ちになった方がいいですよ。」
と言われました。
私は、刃物は切れても切れなくても、定期的に研いだ方がいいのかと思っていました。
さらに小学生の時から使っていた和バサミも研いでもらえるかと持参したのですが、それは研げない形のものだったようです。
なんというか、刃物一つとっても、知らないことばかりだなあと思いました。
そしてもう一軒、刃物専門店、東京駅八重洲口の「西勘本店」へ。
ここには刃物に詳しい店員さんがいて、ものすごく詳しく説明してくださいます。
いろいろな刃物が取り揃えられていますが、もう「紙だけ切るハサミ」と決めてきたので、日本製のとヘンケルスとを見せてもらいました。
ヘンケルスはドイツの会社で、意匠はドイツですが、作っているのは日本ということでした。
日本VS日本(笑)
両方とも研ぐことはできないので、切れなくなったら買い換えるより仕方ないそうですが、耐久性に少し差があるんだそうです。
で、結局日本製にしました。(笑)
伝統を前にすると、知らないことだらけです。
一日中、知らないことばかりだったなと思いました。
日本の伝統、深いです。
そして、餅は餅屋だと思いました。